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kamakuraguu

「お嬢様、今日はどちらまで?」

「メルヘン風車に お乗りになられませんか?」

「お話をしながら、お好みの場所まで旅のお供をしますよ。」

「そうですか、鎌倉宮ですね。お乗りくださいませ」「さぁ、出発しますよ!」

「お嬢様、ところで 鎌倉宮への旅の目的は何ですか?」

「あそこには、身代わり皿があると聞いたので娘の病気平癒を祈りに行くのです」

「はい、身代わり皿、厄落とし皿のことですね。」

では、鎌倉宮に到着するまで、そこのお皿から聞いた話を 走りながらお話しましょう。」

 

人力車

 

パリーン 又、仲間が割られる音がした。僕の番が、迫ってきている。

いつも、色んな人が僕に息を吹きかけて小屋の真ん中にある黒い大きな石に、思い切り、ぶつける。小屋の前には 立て札がある。

「ここにある お皿に息を吹きかけて、割ると、このお皿が、あなたの身代わりになってくれます。一枚、100円」

ここは、鎌倉二階堂にある 神社。僕の体は、100円玉と交換される。

もう、慣れているけれども、割れる時は 結構、今でも痛い。

割れた後、割れた仲間のお皿が集められ 釜の中で、仲間と一つにされて、

また 僕たちは ここの、お皿になる。こういうことを、何度も繰り返してきた。

 

息を吹きかけられると、その人の感情が 僕に乗り移る。

大抵は、悔しいとか 理不尽だという思いで、怒っているので、

僕も、怒った気分に なってしまう。

本当は、割られてしまう僕の方が、怒りたいくらいだが、

これは神様から頼まれた、お仕事。だから、僕も黒い大きな石をめがけて、飛ぶ。

時々、仲間の皿の中には、割られるのが嫌で、黒い石を避けて飛ぶ、皿もいる。

「もう、この仕事から、解放されたい。」「もう、嫌だ。」という、声が 時々聞こえてくる。

順番待ちの間、仲間のそんな声が聞こえてきて、僕は 落ち着かない。

同じ100円の価値なら、賽銭箱に投げられる100円玉になりたいけれど、

それは 元々、材質が違うから、無理だろう。

 

土の焼き物で出来た僕たちは、ピカピカ光る金属製のお金には、なれない。

皿は皿でも、今度は 割られるためのお皿ではなく、人に大事にされる皿に、なりたいな。

僕は、勇気を出して 神様に頼んでみようと思った。

神様の姿は ずっと、ここに居ても見たことがないけれど。

僕も、ここへ来る人達と同じように、お願いをしてみよう!

今まで体を張って、頑張った僕の願いをもしかしたら、神様は、叶えてくれるかも知れない。

僕は、そう願いながら 僕に息を吹きかけた女の人の願いと一緒に、黒い石に ぶつかってみた。

 

ぱっと目が覚めると、その時に息を吹きかけた女の人が、僕の体の中に、香りのよい紅茶というものを注ぎ、僕をなでながら、家族に自慢していた。

「この、透明感のある青みがかった白さが とても おしゃれだわ!」

「こういうのが、涙色って言うのかしら?」

僕は、上等な、紅茶カップに生まれ変わったのだ。

女の人は、僕をどっしりした木の棚の、おしゃれな異国のカップの横に 並べた。

大切にされて、僕は嬉しかった。今度はいつ、僕を使ってくれるのかな?

ゆっくり、安心できるって、幸せだな。隣の、紅茶カップに、声を掛けてみた。

「こんにちは、初めまして、よろしく。」「あなたは、どこから いらしたの?」

僕は、神社の身代わり皿だったと、今までの話をすると、その、異国から来たカップは

「割るために、わざわざ作られるお皿って、人間のすることは、本当にわからない」と、言った。「そうかもしれない、僕って、一体、何だったのだろう?」

順番を ただ、待つだけの 受け身だった僕。ここでは ゆっくり 考える時間が、あった。

 

でも、何だか つまらない。何故だろう?

香しい紅茶の香りも 僕の体に浸み込んでいるのに。

棚の中で眠っていたら、声が聞こえてきた。

「あなたも、紅茶くらい、自分で淹れればいいじゃない。何でも私に頼まないで!」と言いながら、イライラした女の人が 乱暴に、棚の戸を 開けながら、ため息を ふっーとついた。僕は今でも、怒った人の声を聞くと、反射的に飛ぶ癖が治らない。

「今だ!」その瞬間、僕は、棚から 転げ落ちた。

 

「パリーン」「神様、僕、やっぱり、仕事が したいです。」

目が覚めると、僕は以前の神社にいた。でも、少し紅茶の香りが残っている。

僕を手に取って黒い石に投げようとした小さな女の子が、その香りに気が付いた。

「お母さん、このお皿 いい匂いがするわ。何だか割るの、勿体ないね。」

紅茶の香りに包まれた女の子とお母さんは 穏やかな気持ちになって

「うん、」と目で合図をしたあと、二人で一緒に ふぅーと お皿に息を吹きかけた。

すると、神社の境内は、紅茶の香りでいっぱいになった。

お参りに来た人達は、その香りに包まれて もう、ただ幸せな気分になって

自分のお願い事を、忘れてしまうほどだった。

小屋の立て札が、一つ、増えた。

「深呼吸して、楽しかったことを思い出して息を吹きかけて下さい。1枚100円」

神社の宮司さんが、真ん中の黒い大きな石の隣に、レモンの木を、植えた。

風に乗って、紅茶の香りが してきたら、僕が仕事を、しています。

割っても良いし、息を吹きかけるだけでも 良いですよ。

おまいりに、来られた方たちが、どうか幸せでありますように。

僕は、今 そんな仕事を 夢見ている。以上がお皿から聞いた お話です。

「娘さんのご病気が良くなられるとよいですね。」

「ありがとうございます。お皿さんも 頑張ってくれているのですね、」

さぁ、到着しましたよ、ここが鎌倉宮です。

 

涼しい さわやかな風が吹いてきましたね。こういう時って、神様が歓迎してくださっている印らしいですよ。これは 白い鳩から聞いた話ですが

「今度は、鎌倉宮のお話をしますね。主祭神は後醍醐天皇の皇子で、父とともに鎌倉幕府を倒したが、その後、足利尊氏と対立し捕えられ幽閉され、尊氏の弟の直義に殺められた護良親王です。 ここ鎌倉宮は、武家から天皇中心の社会への復帰に尽力した 親王の功を賛え、明治天皇により 造営されました。」

 

「何だか、悲しいお話ですね。」

「確かにそうですね。今は昔の立場を乗り越えて 鎌倉を守ってくださっています。」

 

ここには、村上社というのも あります。

 

護良親王の身代わりとなった村上義光の像が

置かれていて、撫で身代わりといって撫でると

体の悪いところを身代わりになってくれるという

ものです。娘さんのかわりに 撫でておきましょう。

 

身代わり皿や 撫で身代わり像の由来は、この村上義光に因んだものなのでしょうね。

 

村上義光は護良親王の兜と直垂(ひたれ)を身にまとい「我は護良親王なり、切腹の見本を見せようぞ!」というと、壮絶な最期を遂げたそうです。その間に護良親王は、しばらくの間 逃げ延びることができたそうです。

「厄落とし皿と、撫で身代わり像、悲しい歴史から こんなにやさしい伝説が 生まれて 今があるのですね。」「どうか安らかにお眠りくださいませ」一緒に手を合わせましょうね。

 

「まず、自分が幸せになって 幸せを分けてあげてください。」

 

「ここのご祭神も おまいりに来られた方が 笑顔で帰られることを祈っていますよ」 
「娘さんも きっと、お母様の笑顔を待っていますよ。」

 

拝殿の中央には獅子頭守りが配置されて

います。護良親王が戦いの時、兜の中に

獅子頭のお守りを忍ばせていたのが由来

です。娘さんのお守りに 小さな兜を

買って帰りましょうか。

 

今度 鎌倉へ来られた時、ぜひまた、ご一緒させてください。

「メルヘン風車」鎌倉宮の旅 二の鳥居の前で終点です。

 

 

鎌倉メルヘンの旅とは

不思議な人力車を譲り受けた「ぼく」が 不思議なお話をしながら
鎌倉のまつわる名所をめぐる物語